資料室

令和元年(受)第1961号 国家賠償請求上告受理申立て事件
 (原審 東京高等裁判所 平成31年(ネ)第1162号・原々審 東京地裁平成30年(ワ)第15609号)

 

上告受理申立て理由の要旨

1 国賠法1条1項(違法性)の解釈適用の誤り(判例相反)(理由第1)
 (1) 原判決が依拠する最高裁昭和53年(オ)第69号同57年3月12日第二小法廷判決・民集36巻3号329頁(以下「昭和57年最判」。いわゆる違法限定説)が、裁判官の職務行為につき、裁判官以外の場合において適用されるいわゆる職務行為基準説(最高裁平成元年(オ)第930号・第1093号同5年3月11日第一小法廷判決・民集47巻4号2863頁参照)よりも国賠法上の違法性を著しく狭く限定する根拠を考察するに、それは、裁判の違法は上訴、再審等の制度を利用して当該訴訟手続内で解決することが原則として予定されている所にこそある、と理解される。この理は、昭和57年最判が「裁判官がした争訟の裁判に上訴等の訴訟法上の救済方法によつて是正されるべき瑕疵が存在したとしても」と述べている、即ち、「上訴等の訴訟法上の救済方法」が存在することを前提としていることにも表れている。
 (2) すると、本件国賠の対象である前訴のように、上訴・再審を担当した裁判所自体が上訴・再審制度による訴訟当事者の救済を不合理に阻み、上訴・再審制度が正常に機能していない場合は、違法限定説の射程外なのであり、かかる場合には、一般原則に戻って、職務行為基準説に基づくべきである。
 (3) そうすると、前訴に対し違法性の判断基準として違法限定説と職務行為基準説のいずれに拠るかを判定するには、まず、前訴の上訴・再審が正常に機能していたか否かを確認すべきとなる。しかるに、原判決(第一審判決を引用)は、前訴各裁判の瑕疵につき何ら認定判断することなく、単に昭和57年最判の基準に拠ることを宣している(第一審判決17頁26行目〜18頁10行目)。
   これは、上述の昭和57年最判の射程(「上訴等の訴訟法上の救済方法」の存在が前提)の理解を誤った、即ち、昭和57年最判と相反する判断であり、国賠法1条1項の解釈適用を誤った法令違反があると言わなければならない。

2 訴訟手続の法令違反

 (1) 相手方の主張の重要事項(事実を争わない)の不摘示(理由第2)
   申立人は、「強引に原告を敗訴させようとの違法ないし不当な意図をもって、殊更な歪曲が敢行された」などと、前訴各裁判の担当裁判官の故意の事実を主張するところ(第一審判決の第2の4(2)(原告の主張)の箇所(第一審判決11頁16行目〜16頁15行目、原判決4頁11行目〜5頁下から5行目))、これらの故意の事実が、違法限定説にせよ職務行為基準説にせよ、いずれにしても国賠訴訟における民訴法上の主要事実に該当することは明白である。そして、相手方は、申立人の主張する事実を一切争わなかった(第一審答弁書)。
   ところが、原判決は、相手方の「事実は争わない」旨の主張を摘示せず、申立人主張事実を「争いのない事実」として摘示することもしていない。これは、民訴法253条1項2・3号、2項(判決書の記載事項)の違反である。

 (2) 重要事項(自白成立)の判断遺脱(理由第3)
   前記(1)の事項は、当該故意の事実につき相手方による裁判上の自白(民訴法179条)の成立を示しており、これを、申立人は原審において主張した(控訴理由書9〜15頁)。ところが、原判決は、この裁判上の自白の成立について、何ら触れておらず、これは、判決に影響を及ぼすべき重要事項の判断を遺脱した違法(民訴法338条1項9号参照)があるといわなければならない。

 (3) 釈明義務違反(理由第4)
   原判決の「原告(控訴人・申立人)の主張」「の諸点等をもってしても、前訴担当裁判官が、その付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したと認め得るような特別の事情があるとは認めるに足りない」との判断(第一審判決18頁13〜20行目)は、その後の括弧書きの説明(同18頁20行目〜19頁4行目)を考慮に入れたとしても、全くもって不合理である。しかし、仮にそれが合理的だというのであれば、裁判所が想定する法的観点を指摘する等して申立人に主張立証の補充の機会を与えることをしなかった原審の判断には、釈明権(民訴法149条1項)行使を怠った違法があるというべきである。