資料室

令和元年(オ)第1587号 国家賠償請求上告提起事件
 (原審 東京高等裁判所 平成31年(ネ)第1162号・原々審 東京地裁平成30年(ワ)第15609号)

 

上告理由の要旨

1 原判決(第一審判決を引用)は、裁判官の職務行為についての国賠法上の違法性の判断基準として最高裁昭和53年(オ)第69号同57年3月12日第二小法廷判決・民集36巻3号329頁(以下「昭和57年最判」)に拠りつつ、「(第一審判決の)第2の4(2)(原告の主張)」「の諸点等をもってしても、前訴担当裁判官が、その付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情があるとは認めるに足りない」(第一審判決18頁13〜20行目)との判断を示している。なお、「原告」とは上告人のことである。

2 この第一審判決の「第2の4(2)(原告の主張)」の摘示箇所(第一審判決11頁15行目〜16頁15行目、原判決4頁11行目〜5頁下から5行目)の内容は、本件国賠事件の対象である民事訴訟(以下「前訴」)中の4件の裁判(以下「前訴各裁判」)の瑕疵及び担当裁判官らの故意の事実等を主張したものであるところ、故意の事実として、前訴各裁判につき、「強引に原告を敗訴させようとの違法ないし不当な意図をもって、殊更な歪曲が敢行された、少なくとも、裁判官として付与された権限の趣旨に明らかに背くものであったと結論づけるほかない。」、「公正中立な立場を離れ、原告全面敗訴に導こうという積極的悪意をもって努めていた」などの記載が含まれている。

3 故意の事実が昭和57年最判の「特別の事情」という規範的要件の評価根拠事実であることは明白であり、その評価根拠事実は、民訴法上の主要事実(主要事実に準ずる重要な間接事実とする説もある。)に該当する。
  この「特別の事情」の評価根拠事実(主要事実に該当する(又は準ずる)。)である故意の事実を上告人(原告・控訴人)が主張していることを判決中で摘示しておきながら、原判決は、当該故意の事実の有無につき認定判断を行わず、「特別の事情」の評価障害事実を何か認定するでもなく、前訴各裁判に「瑕疵」は無いと認定判断するでもなく、故意は「特別の事情」の評価根拠事実ではないと判示するでもない。これでは、原判決は、判断理由の骨格を欠き、論理的に主文を導出することが不可能で、判文自体として論理的完結性がないと言うほかない(最高裁平成10年(オ)第2189号同11年6月29日第三小法廷判決・裁判集民事193号411頁参照)。従って、原判決は、理由不備と評価される(民訴法312条2項6号前段)。なお、原判決につき、理由自体は一応形式的には付されているものとした上で、以上に挙げた問題点を理由の記載自体の前後矛盾、論理的一貫性の欠如とする捉え方もあるかもしれないので、理由齟齬(民訴法312条2項6号後段)との主張も予備的に行っておく。

4 なお、前記1の判示の直後に、原判決は括弧書きの説明を加えている(第一審判決18頁20行目〜19頁4行目)。しかし、その説明対象は、前訴第一審判決のみで、他の3件の前訴裁判については何も触れていないのだから、この他の3件の前訴裁判に関しては、やはり前記3のとおりで、原判決に理由不備又は理由齟齬の違法があることは動かず、これだけでも上告理由として十分である。
  また、この括弧書きの説明は、その体裁や文面自体からして前記1の判断を論理的に導出するための理由付けにはなっていないので、これをもって、前訴第一審判決に関し原判決が理由不備(又は理由齟齬)でないと見ることはできない。
  仮にこれが判決の理由に該たると前提を置いたとしても、括弧書きの説明の前段は、前訴第一審判決は「前訴被告が武富士に対し平成21年6月5日付けで242万7705円の過払金の返還請求をした」旨を認定したとする一方で、「前提事実」の箇所では、前訴第一審判決は「(同日)の時点においては・・・過払金請求をすると確定したとはいえない」と認定した(つまり当該請求がまだなされていないことを前提としている。)としており(第一審判決7頁19〜20行目、原判決3頁10〜13行目)、明らかに、理由齟齬である。後段についても、その内容自体が失当である上、5点摘示した上告人主張の前訴第一審判決の問題点(第一審判決11頁18行目〜12頁25行目の(ア)から(オ))のうちの1点((ウ))のみを説明しようとするものであるから、いずれにしても、これによって前訴第一審判決につき前記3の理由不備又は理由齟齬が解消されることにはならない。