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東京高等裁判所 平成31年(ネ)第1162号 国家賠償請求控訴事件 判決
  (第16民事部 萩原秀紀裁判長)

 

 

令和元年8月1日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 ・ ・ ・ ・
平成31年(ネ)第1162号 国家賠償請求控訴事件
(原審・東京地方裁判所平成30年(ワ)第15609号)
口頭弁論終結の日 令和元年5月28日 
              判       決
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     控 訴 人(原告)          X
     同訴訟代理人弁護士          ・   ・   ・   ・
  東京都千代田区霞が関1丁目1番1号
     被控訴人(被告)           国
     同代表者法務大臣           山   下   貴   司
     同指定代理人              ・   ・   ・   ・
     同                 ・   ・   ・   ・
              主       文
         1 本件控訴を棄却する。
         2 控訴費用は控訴人の負担とする。
             事 実 及 び 理 由
第1 控訴の趣旨
 1 原判決を取り消す。
 2 被控訴人は,控訴人に対し,1124万7526円及びこれに対する平成29年2月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要(用語の略称及び略称の意味は,原判決に従う。以下同じ。)
 1 控訴人は,亡母が行っていた貸金業者との取引に関して,司法書士法3条2項各号のいずれにも該当する司法書士(前訴被告)に債務整理事務(過払金返還請求を含む。)を委任し,前訴被告は,株式会社武富士(武富士)に対し,元利合計242万7705円の過払金の返還を請求したが,武富士の会社更生手続開始の申立てまでに過払金が返還されず,同更生手続による管財人からの弁済金9万3496円を除き過払金の返還を受けることができなかった。そこで,控訴人は,前訴被告に対し,過払金の額が司法書士法3条1項7号,裁判所法33条1項1号に規定する額である140万円を超えることが判明したにもかかわらず,前訴被告が漫然と武富士との交渉を継続したため過払金の返還を受けることができなかったなどと主張して,債務不履行又は不法行為等に基づき,348万8307円(第一審の段階では317万1189円)及び遅延損害金の支払を求める訴え(前訴)を福岡地方裁判所久留米支部に提起した。同裁判所は,11万円及び遅延損害金の支払を求める限度で請求を認容する判決をし,控訴人と前訴被告の双方が控訴したところ(前訴控訴審),福岡高等裁判所は,前訴被告敗訴部分を取り消し,控訴人の請求を全て棄却する判決をしたことから,控訴人が上告及び上告受理申立てをしたが,最高裁判所の上告棄却兼不受理の決定により,前訴控訴審判決は確定した。
   その後,控訴人が,確定した前訴控訴審判決には判断の遺脱があるとして福岡高等裁判所に再審の訴えを提起したところ,同裁判所は,判断の遺脱はないとして再審請求を棄却する決定をした。これに対し,控訴人は,特別抗告をするとともに抗告許可の申立てをしたが,同裁判所は抗告を許可しない決定をした。この決定に対しても,控訴人は特別抗告をしたが,最高裁判所はいずれの特別抗告についても棄却する決定をした。
   本件は,控訴人が,@前訴第一審を担当した福岡地方裁判所久留米支部の裁判官,A前訴控訴審を担当した福岡高等裁判所第4民事部の各裁判官,B前訴再審を担当した同裁判所第2民事部の各裁判官,C前訴抗告許可申立てを担当した同部の各裁判官(これらの裁判官を総称して前訴担当裁判官)について,いずれも強引に控訴人を敗訴させようとの違法ないし不当な意図をもって,殊更に歪曲した裁判を行ったものであるなどと主張して,国家賠償法(国賠法)1条1項に基づき,被控訴人に対し,損害賠償金1124万7526円及びこれに対する最終の違法行為の日(前訴抗告許可申立てに対する不許可決定の日)である平成29年2月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
   原審は,前訴担当裁判官が,その付与された権限の趣旨に明らかに背いて行使したものと認め得るような特別の事情があると認めるに足りないとして,控訴人の請求を棄却したところ,控訴人がこれを不服として控訴した。
 2 前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,次のとおり原判決を補正するほかは,原判決の「事実及び理由」の第2の2ないし4に記載のとおりであるから,これを引用する。
  (1) 原判決7頁19行目の「時点において」を「時点においては,いまだ控訴人が武富士に対して140万円を超える過払金請求をすると確定したとはいえないから,前訴被告が直ちに事務の取扱いを中止すべきであったと認めることはできず,」と改める。
  (2) 原判決9頁2行目の「結論として」を「前訴第一審が義務違反行為を認定した,控訴人のものでない印鑑を使用したこと,ライフから返還された過払金4万円を引き渡さなかったこと,債務整理事務の処理の遅滞等も含めて」と改める。
  (3) 原判決10頁3行目の「さらに」から同行目の「認められず」までを「かかる消極的認定を前提に本件委任契約に係る紛争の目的価額が140万円を超えることが明らかであったとはいえず,また,前訴被告においてそのような認識を有していたものとは認められないとの認定判断をしていることが確定判決の判文上明らかであって,この点について判断遺脱はなく,同Cの事実は,主要事実の間接事実として位置付けられるものとはいい難い上,仮にBの事実を推認させる間接事実と位置づけ得るとしても,Cの事実から直ちにBの事実を推認することも困難であり,いずれもその判断を欠くことによって判決に影響を及ぼすものとは到底解されず」と改める。
  (4) 原判決10頁5行目の「原告は,」の次に「平成29年2月21日,」を加え,同頁25行目の「ところであるが,」の次に「違法限定説の根拠は,裁判の違法は上訴,再審等の制度を利用して当該訴訟手続内で解決することが原則として予定されているところにこそあると理解されるから,」を加える。
  (5) 原判決11頁2行目末尾の次に「仮に,違法限定説に拠るとしても,法的瑕疵ある裁判官の行為が,故意,悪意ないし意図的であった場合だけでなく,裁判の内容が杜撰であるなど著しく過失がある場合,国民の司法制度に対する信頼を損ないかねないような著しい不合理や逸脱がある場合にも,昭和57年最判のいう「特別の事情」があるものとして,国賠法上の違法性の要件は満たされると考えるべきである。」を加える。
  (6) 原判決15頁7行目末尾の後を改行して次のとおり加える。
   「 その上,同決定は,同判示の後「かかる消極的認定を前提に」云々と議論を続け,結局,Bの事実とは全然別の事実(本件委任契約に係る紛争の目的価額が140万円を超えることが明らかであったとはいえず,また前訴被告において,そのような認識を有していたものとは認められないこと)について「認定判断」がされているから「この点について判断遺脱はない」と議論をまとめている。つまり,議論の対象事実を,Bの事実から前記「紛争の目的価額」云々の別の事実にすり替えるという不当な立論をしている。
     さらに,同決定は,「Bの事実が認められないとしてこれを認定しなかった」ことを「消極的認定」と呼んで,Bの事実につき前訴控訴審判決が「判断」をしたのか否かを曖昧にしているが,そもそも,「消極的認定」とは,ある事実が存在しないという否定の「判断」をすることを意味する用語なのであり,「判断が存在しないこと」を「消極的認定」と呼ぶことには無理がある。
     このように,同決定は,何の根拠もないのに前訴控訴審判決のBの事実の判断遺脱を否定しようとし,その根拠の欠如を取り繕うため,議論の対象事実のすり替えや「消極的認定」なる概念の潜り込ませを敢行したということであり,誠にもって理不尽極まる論法を行っている。」
  (7) 原判決15頁10行目の「同Cの事実は,」を「共同相続人のうち多額の債務を負う者が相続を放棄することは世間の実態としてよくあることであるから,同Cの事実は,上記イAの事実を推認させる間接事実として,」と改め,同頁12行目末尾の次に「また,同決定は,Cの事実につき「仮にBの事実を推認させる間接事実と位置づけ得るとしても,Cの事実から直ちにBの事実を推認することも困難であり」と判示するが,これは,Cの事実とBの事実が並立してAの事実を推認させる旨の前訴再審訴状の明文の記載に反しており,単なる訴訟当事者の主張の取り違えの域を超えている。」を加える。
  (8) 原判決16頁9行目末尾の後を改行して次のとおり加える。
   「 また,前記のとおり前訴再審棄却決定に判例相反の判断があることは一見極めて明白であって,抗告許可の要件を満たすことは民訴法337条2項の条文上明らかであった。さらに,前訴抗告許可申立ての理由書は平成29年2月21日の夕刻午後4時過ぎころ裁判所書記官へ直接手渡しで提出され,その翌日の同月22日に不許可の決定がされているのだから,僅か1日弱の時間で不許可の結論が出されたことになる。しかし,同理由書は,本文の分量で17頁ある上,多くの最高裁判例,大審院判例,文献等を引用しながら4点の判断遺脱事項につき詳細な説明をしており,そのような短時間で慎重十分な審理がされたとは考え難く,状況から察するに,同理由書の提出後,福岡高等裁判所第2民事部は,その内容を一切考慮することなく,問答無用的に不許可の決定を敢行したものと見られる。」
第3 当裁判所の判断
 1 当裁判所も,前訴担当裁判官が,その付与された権限の趣旨に明らかに背いて権限を行使したものと認め得るような特別の事情があると認めるには足りないと判断するが,その理由は,原判決の「事実及び理由」の第3に記載のとおりであるからこれを引用する。
 2 控訴人の当審における主張は,原審における主張の繰り返しか,独自の見解に基づき自らの意に反する前訴担当裁判官の判断について,その付与された権限の趣旨に明らかに背いて権限を行使したものと認め得るような特別の事情があると論ずるものであって,前記1の判断を左右しない。
 3 よって,控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。

     東京高等裁判所第16民事部

                裁判官  馬   場   純   夫

                裁判官  片   野   正   樹

裁判長裁判官萩原秀紀は退官のため署名押印することができない。

                裁判官  馬   場   純   夫