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最高裁判所 令和2年(ヤ)第119号 国家賠償請求上告等事件の棄却決定に対する準再審申立て
  (第三小法廷 宮崎裕子裁判長)

 

令和2年第119号 国家賠償請求上告等事件の決定に対する再審申立事件
再審申立人 X
再審相手方 国
               準備書面1
                             令和2年5月31日
最高裁判所第三小法廷 御中

             再審申立人訴訟代理人弁護士 * * * * 印

本件再審申立ての理由(再審事由)については再審申立書(本年4月16日付け)に記載したところであるが、念のため、さらに以下の説明を補足する。
(なお、再審申立書中の短縮呼称をそのまま用いている。)
1 「事実誤認」について
 (1) 「特別の事情」は規範的評価であって、「事実」ではないこと
  ア 再審申立人(前審上告人)は、前審上告理由において、前審控訴審判決(前審第一審判決を引用)が、「付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情」(以下「特別の事情」という。)を否定する判断をしたことを批判している(前審上告理由書5~11頁)。
  イ しかし、この「特別の事情」は、規範的評価であって、事実ではないことは明白である。従って、同上告理由のこの点をもって、「事実誤認を主張するもの」とすることはできない。そして、規範的評価であるこの「特別の事情」を基礎づける評価根拠事実のレベル(即ち、前訴(本件国賠訴訟事件の対象となっている訴訟事件)の裁判官らが故意を有していた事実)では、全く争いがないのであるから、「事実誤認」が問題となる訳もないのである。
 (2) 理由齟齬は「事実誤認の主張である」などとして上告理由から排斥されるべきでないこと
 ア 判決理由中の事実認定に前後矛盾がある場合、理由齟齬(食違い)として上告理由に該当することは判例として当然確立している(例えば、最高裁平成20年(オ)第275号同21年2月20日第二小法廷判決・判例時報2082号11頁(被上告人はセクハラ行為が存在しないことを認識していたと原判決が認定する一方で、別の箇所では、同人がそのように認識していたとは認められないと認定した事案。)。)。即ち、事実認定に前後矛盾があれば、少なくとも前後どちらかの事実認定は誤りということになるはずであるが、このような場合に、かかる前後矛盾を指摘しても、「事実誤認の主張である」などとして上告理由から排斥されることはないのである。
  イ 同様に、本件国賠事件においても、再審申立人(前審上告人)は、前審上告理由において、前審控訴審判決中の記載の前後矛盾を指摘しているが(前審上告理由書13頁14行目~14頁16行目)、これをもって「事実誤認の主張である」として上告理由に該当しないなどとすることはできないはずである。
 (3) そのほか、前審上告理由書のどこにも、「事実誤認の主張」と見られるような箇所は存在しない。
2 「単なる法令違反」について
 (1) 理由不備
  ア 訴訟当事者がある訴訟物に係る要件事実を主張した以上、裁判所としては当該要件事実の存否の判断を示す必要が当然あるのであり、この点、判例は、抗弁の主張を摘示しながらこれについて判断をしないのを理由不備としている(例えば、最高裁平成22年(オ)第1228号同24年10月12日第二小法廷判決・判例時報2188号10頁(上告人からの消滅時効完成の抗弁の主張を摘示したのに原判決がそれにつき何ら判断しなかった事案。)。)。この理は、抗弁事実のみならず、当然、請求原因事実にもあてはまろう。
  イ 本件国賠事件において、前訴裁判官らの故意の事実が、訴訟物たる国賠法1条1項に基づく国家賠償請求権の請求原因事実の一つであることは、疑う余地なく明白なことであるところ(「故意」は同法同項の条項の明文に表れているし、故意であれば「特別の事情」に該当することは自明である。)、前審控訴審判決(前審第一審判決を引用)は、再審申立人(前審上告人)がそれを主張したと摘示した(前審第一審判決12頁11~15行目、13頁1~4行目、13頁24行目~14頁4行目、15頁13~16行目、16頁10~13行目、前審控訴審判決4頁下から2行目~5頁2行目、5頁下から7~5行目)にもかかわらず、その存否の認定判断を行わなかった(前述のとおり争いのない所であるから、行うとしたら肯定の認定しかあり得ない。)。これは、まさしく、理由不備にほかならない。
    そして、これが理由不備に該当することを、再審申立人(前審上告人)は、前審上告理由書において明確に主張している(前審上告理由書10頁2~22行目)。
   (なお、前審控訴審判決は、再審申立人(前審上告人)の主張の「諸点等をもってしても・・・特別の事情があるとは認めるに足りない」と判示しているが(引用された前審第一審判決18頁18~20行目)、「特別の事情を基礎づけるものではない」などとは言わないのであるから、当該故意の事実が「特別の事情」の評価根拠事実であること、つまり請求原因事実であること自体は前提として認めているものと理解される。その上で、再審相手方(前審被上告人)国の方が抗弁として何らか強度の「特別の事情」の評価障害事実を主張してそれが認定されたというのであれば、この判示部分を理解できる可能性も無いではない。しかし、そのようなものは全くなされていないのであるから、やはり、前審控訴審判決は、論理的に成り立っておらず、理由不備というほかない。)
 (2) 理由齟齬
 前記1(2)イのとおり、再審申立人(前審上告人)は、前審上告理由において、前審控訴審判決中の記載の前後矛盾を指摘しているが(前審上告理由書13頁14行目~14頁16行目)、これは、まさしく、理由齟齬にほかならない。
   そして、これが理由齟齬に該当することを、再審申立人(前審上告人)は、前審上告理由書において明確に主張している(前審上告理由書14頁15~16行目)。
 (3) 以上(1)、(2)のとおり、再審申立人(前審上告人)は、明らかに理由不備・理由齟齬に該当する事項を理由不備・理由齟齬として明確に主張している。
   そして、前審上告理由書のどこにも、理由不備・理由齟齬以外の「単なる法令違反を主張するもの」と見られるような箇所は存在しない。
3 結論
 (1) 原決定は、「本件上告の理由は、理由の不備・食違いをいうが、その実質は事実誤認又は単なる法令違反を主張するものであって」と判示し、その後それから直接に、「明らかに(民訴法312条1項又は2項)に規定する事由に該当しない」と決定の根拠法条である同法317条2項へのあてはめに移っている。
 (2) しかし、以上1、2項で見てきたとおり、前審上告理由は、どこからどう見ても、「事実誤認を主張するもの」ではないし、また、理由不備・理由齟齬以外の「単なる法令違反を主張するもの」でもない。すると、原決定は、議論の前提を全く欠いていると言わざるを得ない。
 (3) 従って、再審申立書の第3の5(2)(3)項及び6(2)項で既に述べたことに加え、この点からしても、やはり結局、原決定は、裁判に影響を及ぼすべき重要な事項(即ち、前審上告理由が理由不備・理由齟齬に該当するか否か)について判断を遺脱したもの(再審事由)と結論づけるほかないということになる。
                                   以 上